目標とポリシー
エネルギーを貯蔵し、必要に応じて取り出す機能は、いかなる電力システムにおいても重要な役割を演じます。その機能を提供する2次電池の性能向上には目覚ましいものがあり、現在では内燃機関を大幅に上回る出力密度も提供可能です。このような技術の進歩を、我々は携帯電話やノートパソコンといった携帯電子機器において、毎日の生活の中で大いに享受しています。これらを、次世代自動車、風力発電や太陽光発電等の、持続可能社会実現に向けた重要大型技術に適用していくことは、環境問題に直面した人類の宿命ともいえ、高容量・高出力・高安全の革新的蓄電デバイスの実現が社会に与えるインパ クトの大きさは計り知れません。
そのためには、システム・デバイスを俯瞰し、その中での材料の位置づけをきちんと行って上で、新たな機能性材料の適用と、その反応機構の正しい理解に基づく最適化が不可欠となります。原子・分子レベルでの精緻な解析から、元素戦略、コストや安全性といった現実問題まで、様々な階層の問題意識をベースに、総合的に研究を推進しています。研究対象となる材料系は、大きくは電極材料(固体系)と電解液材料(液体系)の二つで、基盤となる学問は、無機化学、固体化学、溶液化学、電気化学、計算化学など多岐にわたります。これまでに、新物質の発見と高電圧電極特性の提示[1,2]、電極反応時に生成する中間状態の同定[3-5]、電極内イオン移動の初めての視覚化[6]、重要電極材料の結晶構造決定[7]、最軽量酸素酸イオンによる実用電極材料の提示[8]、ナトリウムイオン電池用高電圧新電極物質の発見[9]、高機能電解液としての新規有機溶液系の提示とその特異物性の発見[10]、ナトリウムイオンハイブリッドキャパシタのプロトタイプデバイス動作[11]など、独創的かつインパクトの高い世界初の新材料・新現象を次々と発信し、世界中の研究者が注目する新たな研究のストリームを数多く生み出してきました。
基本ポリシーとして、「独自性と社会受容性の高度両立」、「新材料・新界面統合設計戦略」、「実験科学と計算科学のリアルタイム融合」、「特殊手法よりも基礎科学に立脚した展開力」を掲げ、蓄電デバイスの理想型を追求していきます。
[1] Journal of the American Chemical Society, 132, 13596 (2010). [2] Advanced Energy Materials, 2, 841 (2012). [3] Nature Materials, 5, 357 (2006). [4] Advanced Functional Materials, 18, 395 (2009). [5] Angewandte Chemie International Edition, (2015). [6] Nature Materials, 7, 707 (2008). [7] Journal of the American Chemical Society, 130, 13212 (2008). [8] Advanced Materials, 22, 3583 (2010). [9] Nature Communications, 5, 4358 (2014). [10] Journal of the American Chemical Society, 136, 5039 (2014). [11] Nature Communications, 6, 6544 (2015).